「若返り物質」「やせホルモン」などと紹介されることの多いマイオカイン。名前は聞いたことがあっても、何をすれば増えるのか、どこまで分かっていてどこからが俗説なのかは、意外と整理されていません。この記事では、マイオカインの基本、増やすための運動と食事、ダイエットや糖尿病予防との関係を、1本にまとめました。
マイオカインとは
マイオカインは、筋肉が運動で収縮するときに血液中へ分泌される生理活性物質の総称です。名前はギリシャ語の「myo(筋肉)」と「kine(作動物質)」を組み合わせたものです。2003年にデンマークのペダーセン教授らのグループが、筋肉は単なる運動器官ではなく、ホルモンのような物質を出す「内分泌器官」でもあると提唱したことが出発点とされています。
これまでに、IL-6(インターロイキン6)、イリシン、マイオネクチンなど数十種類以上が報告されています。研究が進むにつれて候補物質は増えており、数字は資料によって異なります。脳、肝臓、脂肪組織、血管、皮膚など、全身の臓器に働きかけることが分かってきました。
なお、マイオカインは細胞間で情報を伝える「サイトカイン」の一種です。脂肪組織が出すものは「アディポカイン」、筋肉が出すものは「マイオカイン」と呼び分けられ、筋肉と脂肪と各臓器が情報をやり取りして代謝を調整していると考えられています。
「新しい筋肉からしか出ない」は本当か
ネット上では「マイオカインは、作られてから4か月ほどの新しい下半身の筋肉からしか分泌されない」という説をよく見かけます。しかしこれは学術論文で確立された知見ではなく、出典を明確にたどれない俗説です。実際には、日常的に動かしている筋肉であれば新旧を問わず分泌されると考えられています。大切なのは筋肉の「新しさ」ではなく、継続して負荷をかけることです。
逆に、運動不足が続いて筋肉が衰えると、筋肉の分解を促す「ミオスタチン」のように、良い働きとは反対方向の物質が増えることも報告されています。こちらは加齢による筋力低下(サルコペニア)との関連で研究が進んでいます。
増やすための運動
下半身の大きな筋肉を使う
太もも、お尻、ふくらはぎ、腸腰筋など、下半身には体の中でも大きな筋肉が集まっています。大きな筋肉を動かす運動ほど、マイオカインの分泌が増えやすいことが知られています。自宅でできる運動の例は次のとおりです。
- スクワット(足を肩幅に開き、息を吐きながら腰を落とし、同じ速度で戻る)
- ランジ(足を前後に大きく開いて腰を落とす)
- 昇降運動(階段のような高さの台を上り下りする)
- 空気いす(壁に背をつけ、椅子に座っているような姿勢をキープする)
- ヒップリフトなど、慣れてきたら種目を増やす
回数の目安は、8〜12回を1セットとして3セット程度です。毎日同じ部位を追い込む必要はなく、筋肉の回復を考えて週2〜3回、1〜2日おきに行うのが効率的とされています。
ウォーキングを組み合わせる
筋トレに加えて、ウォーキングなどの有酸素運動を組み合わせると、インスリンの効きやすさの改善にもつながり、マイオカインの働きを後押しすると考えられています。運動が苦手な人でも、ウォーキングなら始めやすい運動です。
- スクワットを10回やる → たんぱく質(牛乳・チーズなど)を摂る → ウォーキング、という流れを1日数回に分けて行う
- 一度にまとめて大量に運動するより、こまめに回数を分けるほうが分泌を促しやすいと言われている
- 歩くときは太ももを意識して上げ、腸腰筋を動かすつもりで歩く
厚生労働省が2024年に公表した「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、成人は1日8,000歩以上(中強度以上の身体活動で1日60分以上)が目安とされ、週2〜3日の筋力トレーニングも新たに推奨に加わりました。歩数や距離の目標を決めるときは、こうした公的なガイドラインも参考にしてください。
日常生活に溶け込ませる
運動の時間をわざわざ取らなくても、通勤で毎日階段を使う、家事のときに椅子を使わない、掃除のときに腰を落とす、といった工夫で下半身を動かせます。1回の運動で分泌される量には限りがあるとされるため、無理のない強度で毎日少しずつ続けることが長期的なポイントです。
増やすための食事
筋トレで筋肉に刺激を与えたら、材料となるたんぱく質の補給が欠かせません。補給が足りないと筋肉の修復が追いつかず、筋トレの効果を活かしきれなくなります。
- 目安は体重1kgあたり1.2〜1.6g程度。体重60kgなら1日72〜96g程度
- 牛乳、卵、鶏むね肉、大豆製品、ヨーグルトなど、日常の食事に取り入れやすいものから補う
- 分岐鎖アミノ酸(BCAA)のロイシン、イソロイシン、バリンは、たんぱく質の多い食品に含まれている
- 緑黄色野菜などでビタミンB6も一緒に摂る
腎臓の病気などでたんぱく質の摂取を制限されている方は、自己判断で増やさず、かかりつけ医に相談してください。
ダイエットとの関係
マイオカインの一種であるIL-6は、運動中の筋肉の収縮によって血液中へ出て、肝臓での糖の産生を助けたり、脂肪組織に働きかけて脂肪の分解を促したりすることが報告されています。イリシンは、白色脂肪細胞を脂肪を燃やしやすい「褐色脂肪細胞に似た性質」に変える働きがあるとして、肥満研究の分野で研究が進んでいます。ただし、ヒトでの効果の大きさは研究によってばらつきがあり、検証が続いている段階です。
「マイオカインを増やせば確実に痩せる」と言い切れる段階ではありません。食事と運動の習慣づくりを後押しする知識として受け取るのが適切です。
糖尿病予防との関係
血糖値が高くなる大きな要因のひとつが、肝臓に脂肪がたまる脂肪肝です。脂肪肝になると、肝臓や筋肉でインスリンが効きにくい「インスリン抵抗性」が起こりやすくなり、高血糖や糖尿病につながります。
マイオカインの代表であるIL-6やBDNFは、細胞のエネルギーセンサーであるAMPKという酵素を活性化させ、脂肪の分解・燃焼を促すことが研究で示されています。これによって脂肪肝の改善や、糖の代謝がスムーズになることが期待されています。
もうひとつ興味深いのは、運動による糖の取り込みはインスリンとは別の経路でも起こるという点です。運動で筋肉のエネルギーが減るとAMPKが働き、筋肉が血液中の糖を直接取り込みやすくなります。この経路は、インスリンの効きが悪くなっている2型糖尿病の人でも働くとされ、「運動そのものが薬に近い働きをする」と言われる理由のひとつです。
目安として、軽い筋トレとウォーキングを1回10分程度、1日2〜3回に分ける方法が取り入れやすいとされています。食後など血糖値が上がりやすいタイミングに合わせて筋肉を動かせる利点もあります。すでに糖尿病の治療を受けている方は、運動の内容を主治医に確認したうえで取り組んでください。
ほかに研究されている働き
マイオカインは、次のような働きが研究段階で報告されています。
- 筋肉の合成を助ける
- 骨の形成に関わる
- 抗炎症作用
- 免疫機能への働きかけ
- 脳の認知機能への好影響
- 血管の健康維持
一部のマイオカインについては、がん細胞の増殖を抑える可能性を示す基礎研究もあります。ただしこれはまだ研究段階のテーマで、「運動すればがんが防げる」と断定できる段階ではありません。また、運動で皮膚のコラーゲン量が増えたという小規模な研究報告(65〜86歳の高齢者10人、週2回・3か月間の有酸素運動)もありますが、人数が少ないため、あくまで参考程度に受け止めましょう。
まとめ
マイオカインを増やす基本は、次の3つを無理なく続けることです。
- 下半身を中心に、大きな筋肉を使う筋トレをする(週2〜3回)
- 筋肉の材料になるたんぱく質を、食事からきちんと摂る
- ウォーキングなどの有酸素運動を、1日数回に分けて行う
特別な器具や難しい知識がなくても始められます。体力や持病に合わせて、無理のない範囲で続けてください。

